10代から20代の学生の間で、SDGsに関心がある層が多く、社会をより良くしていこうという機運が高まってきています。
そんな中、起業の中でも「社会起業家」というビジネスの起こし方が注目されています。
社会起業家は聞きなれないから一見「胡散臭い!?」と思いがちですが実際の所はどうなのか解説していきます。
社会起業家とは何?

社会起業家とは社会福祉や地域社会の活発化など、よりよい暮らしを実現するための課題に取組む起業家のこと。社会起業家が行うビジネスは「ソーシャルビジネス」とも呼ばれています。
経済産業省の報告によると、社会起業家によるビジネスは「社会性」「事業性」「革新性」の3つの定義を満たすものとされています。それぞれについて見ていきましょう。
- 社会性・・・社会問題に取組むもの
わたしたちが生活する中ではさまざまな社会問題があります。
少子高齢社会の進展、障害者、共働き、青少年、自然環境、貧困など日々新しい課題が生まれているのです。過疎問題など、特定の地域だけにある課題も社会起業家が取組むべき課題とされています。
- 事業性・・・収益性のある事業であること
社会問題の解決には長期間かかることもあるでしょう。活動し続けるためには利益を上げて事業を存続させる必要があります。国などの補助金、寄付だけに依存すること無く自ら資金を回転させられるビジネスでなければなりません。
- 革新性・・・革新的な方法であること
新しい社会的商品・サービスや仕組みを開発・活用したりすること、その活動が社会に広がることで社会的価値を創出することをいいます。
ソーシャルビジネスでは今までにはない新しい取組みが常に考えられているのです。

起業家との違いとは?
起業家と社会起業家の違いは、ビジネスの「目的」をどう定めているかにあります。
一般的な起業家は顧客のニーズに着目しますが、社会起業家は社会問題に着目しているのです。
起業家は自らのアイデアを元にして、新しいビジネスモデルを考えます。例えばコンサルタントとして起業する場合は、クライアントへのアドバイスを通して企業価値を高めることが目的です。
一方、社会起業家は社会問題そのものの解決を目的にします。例えば、家庭環境が悪く家出した子どもを保護するシェルター事業のように、自らが直接解決や支援することが前提となっています。
ソーシャルビジネスの歴史とは?
ソーシャルビジネスは初めて看護学校を設立したナイチンゲールなど古くから存在しています。そして、今のソーシャルビジネスの流れは1980年代にイギリスで生まれた考え方を発展させたものです。
当時、長く続く不景気に苦しんでいたイギリス政府は、現状打開のためにピーター・ドラッカーが提唱した「民営化」を取り入れました。それを実行したのは「鉄の女」と言われるマーガレット・サッチャー首相です。
民営化により政府の負担が減るだけではなく、市場原理を取入れることで、合理的かつ効率的なサービスを実現したのです。
一方で、いままで国が担っていた領域が空いたため、さまざまな社会問題も現れるようになりました。そこで登場したのがソーシャルビジネスと言われています。
2006年には社会起業家でグラミン銀行の創設者であり経営者であるムハマド・ユヌス氏がノーベル賞を受賞したことで知名度を上げました。
社会起業家は怪しい?なぜ胡散臭い?
検索エンジンで社会起業家と調べると「怪しい」「胡散臭い」という関連ワードが登場します。その理由の1つは「会社とはお金儲けをするためのものだから、お金にならない社会活動に取り組む人たちは不自然だ」というものです。
ですが、そもそも会社の目的は利益追求ではなく、本質的には社会貢献です。
利益は社会貢献という目的を達成するための要素にすぎません。一般的な起業家よりも社会起業家のほうが問題に直接アプローチする比率が大きいというだけなので、怪しさや胡散臭さとは結びつきませんよね。
理由の2つ目は、SDGsのように社会問題に取組む10~20代の活動にあります。
社会問題をテーマにした大学生起業は就職活動でアピールしやすいこともあり、サークル活動の延長上で行われていることも。
デモや署名など目立つ活動をしていることからSNSで「炎上」してしまうこともあり、批判や妬みの対象となってしまうのです。
今までの活動との違いとは
社会起業家と今まで行われている活動とは何が違うのでしょうか?
活動理念が似ているボランティアや、国の制度との違いを見ていきましょう。

ボランティアとの違い
社会問題に対する活動としてボランティアも盛んに行われています。ボランティアは日本では無償で行われることがほとんどで、有償の場合でも経費支給など最低限です。
ボランティア団体の資金源は寄付、補助金・助成金、メンバーが本業で働いた給与の一部を充てるなどによるため、ボランティア団体が単独で活動を維持することは困難です。
地震など自然災害が発生した数週間から数ヶ月間のみ組織されるものや、個人のみでの活動の場合もあり、それぞれ協力関係がベースにあります。
一方、ソーシャルビジネスは有償の商品・サービスを提供することで、社会問題の解決を目指しています。他社との競争関係が発生することで品質が向上する効果も。自ら資金調達ができることから、新たな社会問題にも柔軟に対応することができるとも言われています。
国などの社会保障との違い
日本の社会保障は「社会保険」「社会福祉」「公的扶助」「公衆衛生」の4つからなります。病気、加齢、障害、死亡、貧困、疾病などから国民を保護するためのものです。
イギリスの救貧法やドイツの社会立法を参考に1800年代後半に整備されていきました。
今では当たり前になった社会保障制度は、国民全体に適用されるという特徴があります。
一方で、社会の多くの人が必要であろうことが優先されるため、個別的な細かい社会問題に対応できないデメリットがあります。国家が救うことができないことをカバーするのが社会起業家の使命なのです。
そのため、社会起業家と相性がよいのは社会保障分野と考えられます。
また、日本は財政面が厳しく、新たな政策を打ちにくいという現実もあります。
社会が複雑化し1人1人の幸せの形も多様化する中で、社会起業家が活躍する場面が広がっていると言えるでしょう。
社会の価値観を変える可能性
社会起業家の定義には「革新的な方法であること」というものがあります。
革新的はイノベーションとも表現ができ、誰も見たことや経験したことのない価値観を生み出します。このイノベーションは、1度起こると当たり前なものになってしまうこともあるのです。
例えば、高齢者向けの食事宅配・配食サービスは今では参入する事業者は多く、食費負担も介護保険などから一部支給されています。ですが元々はボランティア活動で、昭和35年頃から始まった地域住民たちが食事を持って訪問したことが始まりなのです。
1989年になると「高齢者給食協会ふきのとう」が給食を開始し、今では健康状態のチェックや簡単なケアサービスも同時に行うこともあります。当時は「弁当屋が高齢者の世話するのか」という声もあったそうですが、今ではインフラとして根付いています。
その他、雇用問題などさまざまな社会問題の場面で新しい提案が続けられています。
社会起業家に向いている人とは?
ここまで社会起業家とはどんなものかを見てきましたが、誰にでもできるというわけではありません。
社会起業家に向いている人とは、どのような人なのでしょうか。

情熱がある
大きな社会問題は国や国際機関レベルで進められています。地球温暖化や森林保護など毎年会議が行われて条約や協定も結ばれています。一方、社会起業家が担うのは「すき間的課題」です。
世の中、社会問題に関心がないという人は少なくありません。例えば、貧困問題を「働かない本人が悪い」としか考えない人は、「社会構造に欠陥があるから個人努力ではどうにもならない」という認識にはならないのです。
社会起業家としてソーシャルビジネスを始動させると、賛同者が集まらないどころか上記のような関心の無い人たちから非難や妨害をされる可能性すらあります。
多くの人が「価値がない」と思うことであっても、社会問題として解決する情熱をもち続けるのは並大抵のことではないのです。
問題意識を持てる人
日常生活や地域にはどのような課題があるのか、常に問題意識を持つ必要があります。社会問題は注意深く観察しないと気づくことができないからです。
例えば、クラスに1人は色の識別が難しい生徒がいます。彼らは学校で教師が赤ペンで訂正した箇所を見つけることが困難だったり、黒板の文字も読みにくかったりします。
この問題は約20人に1人の割合で発生しますが、話題になることはほとんどありません。
問題に気づくには、相手のちょっとした発言や不自然な行動がヒントになります。
色々な場所に顔をだして情報を吸収するのが好きな人は社会起業家にも向いているでしょう。
複数の視点で見ることができる人
社会問題は長い歴史が絡み複雑化していることもあります。Aさんは良くなった代わりにBさんの負担が増えたのでは解決しませんよね。
情熱だけで突っ走らず、構造を細かく分析して、冷静にビジネスモデルを考えなければなりません。
ソーシャルビジネスではさまざまな立場の人が関わります。それぞれの立場から見て納得できる解決策を提示する必要があります。
学歴は関係ない
社会起業家に学歴は必須ではありません。今までの社会の価値観を変えるソーシャルビジネスでは、むしろ邪魔になることもあります。
高度教育を受けることで常識を打ち破りにくくなる可能性があるからです。
社会改革やイノベーションと響きはよいですが、既にあるマーケットや団体の利益を失わせる力強さを持っているものもあります。さらに社会問題に関わる当事者たちと全く同じ目線に立って付き合わなければなりません。
「してあげる(支援)」のではなく「共に取組む(解決)」アプローチが重要となります。
社会起業家になるために必要なこと
社会起業家になるために必要な資質をみてきましたが、実際に社会起業家としてビジネスを起こすためにはどのような行動を起こせばよいでしょうか?

ビジネススキルを身につける
社会起業家の特徴は社会問題を解決しながらも、利益を上げることが求められる点です。
ビジネスパーソンとして求められる常識がなければ、関係者たちと取引してもらうことができません。
人によってはソーシャルビジネスをボランティアの延長線上に捉えて、社会起業家のビジネス能力を疑問視する人もいます。経営に関する知識、マーケティング、営業、財務管理など信頼を獲得するためにもビジネススキルは必須です。
プレゼン能力を鍛える
「我が社の最新アプリを、他社の旧式アプリを使っている100万人に届けたい!」など、製品・サービスの場合はターゲット層もイメージも比較的簡単です。
ですが、社会起業家の提案は共感や理解を得にくいこともあります。
相手に的確に自分たちのアイデアを伝えて、賛同を得るにはプレゼン技術が欠かせません。説明するだけではなく、いかに相手を惹きつけて説得できるかがポイントとなります。
ボランティアやなど経験する
社会問題を「発見」するのは簡単ではありません。一般的な起業家は社会問題にも着目しますが、現実的には「あったらいいな」といったニーズにアプローチします。社会問題を発見するためにはトレーニングが欠かせません。
ボランティアや奉仕活動に参加してリアルな声を取り入れたり、社会活動家の元を訪れたりするのもよいでしょう。
資格を身につける
社会起業家の扱うテーマは環境問題や福祉政策が多い傾向があります。とくに健康分野では資格が細かく分けられています。代表者本人が資格を持っていないと事業をスタートさせることができない場合もあるのです。
また、知識を体系的に学ぶことができるのが資格勉強です。学ぶ過程でソーシャルビジネスを思いつくこともあります。ビジネスをスタートさせた後は忙しく、資格を取るのは難しいのであらかじめ取得するとよいでしょう。
価値観が合うメンバーを集める
ソーシャルビジネスは1人でも始めることができますが、チームで活動していることが多いと言われています。
メンバーを集めるときに重要なのは理念や価値観が一致しているかです。
高い使命感が求められるソーシャルビジネスでは「雇用契約」という考え方は馴染みません。ただ与えられた仕事をこなす人物ではなく、メンバー1人1人が問題に取組むチームでなければなりません。
社会起業家に向いている形態とは?
ソーシャルビジネスを行うためには何かしらの組織として動く必要があります。
社会起業家にとって、どのような形態で事業を行うかは重要な選択です。
社会起業家に向いているのはどのような形態の組織でしょうか。

個人事業主
個人事業主は法人を設立せずに、個人で事業を営んでいる人のことです。管轄の事務所に対して開業届、青色申告承認申請書、給与支払事務所等の開設届出書など必要な届出をすることで事業を開始することができます。
手続きそのものに手間や費用が掛からないので、もっとも簡単な方法です。
一方で、株式会社など法人に比べると社会的信用が低いため、事業の発展や継続がしにくいデメリットがあります。また、責任に上限が無く失敗時のリスクが高くなることもあります。
そのため、社会起業家にとって個人事業主での起業は適さないケースが多いでしょう。
営利団体
営利団体には「株式会社」と、持分会社として「合名会社」「合同会社」「合資会社」の3つがあります。
株式会社
株式会社のメリットは資金調達手段の豊富さです。
種類株式、新株予約権、社債など条件に適した方法を取ることができます。所有権と経営権が分離しているため、会社への関わり方も出資者としてか参加者としてかを選ぶこともできます。利益追求のためにも適した形態です。
持株会社
持分会社は個人の持ち味を活かすことが可能です。
所有と経営が一致しているので「出資者=メンバー」となります。メンバー1人1人が責任を持ってビジネスに取組む結束力の強い組織と言えるでしょう。
株式会社よりも手間が少なく低コストで設立できるメリットがあります。
非営利団体
社会起業家が検討する代表的なものには「一般社団法人」「NPO法人」「事業協同組合」があります。非営利団体と言うとボランティアや慈善事業を連想して、利益を上げてはいけない組織と思ってしまいますが、実は違います。
「非営利」とは余剰利益を分配しないという意味です。例えば、営利組織の株式会社は利益を「株主配当」などとして配当することができます。非営利団体でも役員と従業員にお金を支払うことはでき、最終的な利益は分配せずに次の活動資金に回されるだけです。
一般社団法人
一般社団法人は出資者(社員)が2人以上いなければなりません。
出資者は出資額の大小に関係なく、対等な発言権を持ちます。一般社団法人はソーシャルビジネス以外にもスポーツ、医療福祉、業界団体、研究団体、自治会などさまざまな組織で採用されています。信用度が高く、寄付や補助金を集めやすいメリットもあります。
公益財団法人
一般社団法人が、都道府県や内閣府に申請することでなることができます。
税制面のメリットが大きく、社会的な信用度も高まります。その分、規制も多くなるので成熟した組織に適していると言えるでしょう。
NPO法人
NPO法人は20の特定分野に限って設立することができ、資本金の必要はありません。
非常に社会的な信用度が高く、寄付や補助金などを受けやすいと言われています。
株式会社より非課税枠が多いのも特徴です。しかし、3名の理事、1名の監事、10名上の社員が求められます。解散すると残余財産が戻ってこないデメリットにも注意しましょう。
事業協同組合
事業協同組合は中小企業がお互いに協力をして、1つの法人格を持ち活動します。他の企業と連携することでお互いのノウハウを活かすことができたり、効率化を実現したりすることができるのです。
4人以上で比較的少額で設立することができ、金融機関や公的機関からの資金調達も受けやすいメリットがあります。独立心の高いメンバーたちが経営リソースを持ち寄って活動の場を作り出せるので、ソーシャルビジネスに相性が良いとされています。
身近な事業協同組合の例は「生活協同組合(コープ)」で、一般的に「生協」とも言われます。
ソーシャルビジネスの課題とは?
社会問題を解決するために活動する、目的意識が非常に高いソーシャルビジネスですが、課題もたくさんあります。この課題を乗り越えることで、世の中で社会起業家が活躍しやすくなるのではないでしょうか。

成功難易度が高い
一般的な起業家よりも社会起業家の方が難易度は高いと考えられます。
ソーシャルビジネスの条件である社会性、収益性、革新性の3つを満たす必要があるからです。経営状況は厳しく、純粋な黒字運営は多くありません。とくに福祉分野でのソーシャルビジネスでは顕著です。
- 補助金なく黒字 25.1%
- 補助金含めれば黒字 37.8%
- 赤字 37.1%
出典:日本政策金融公庫 ソーシャルビジネスの資金調達の現状について
認知度の低さ
ソーシャルビジネスはさまざまな人の後押しがないと成功しません。しかし、認知度はそれほど高くはないでしょう。投資家からの投資や支援者の協力を得るためには、積極的なアピールが必要です。
アピール方法もSNS、YouTube、セミナー、広告宣伝、地域の街頭掲示板、メディアなどさまざまなプローチが求められます。
資金調達に工夫が必要
NPO法人は金融機関の融資を受けることが難しい現状があります。社会起業家になるためには資金調達計画は慎重に立てなければなりません。
とはいえ、ソーシャルビジネスは「社会問題に取組む」という面から、寄付金やスポンサーからの支援を得やすいメリットもあります。
また、クラウドファンディングの活用も有効です。SDGsなど社会貢献度の高い取組みは10~20代に浸透しています。
社会起業家のアイデアや価値観に共感が得られれば、想定したよりも多くの資金を調達できる可能性もあります。
成長力が見込めるものであれば、スタートアップ企業を支援する投資家から投資や経営アドバイスを得ることもできるでしょう。日本政策金融公庫でもソーシャルビジネス向けの融資プランを用意しています。後押しする制度を上手に利用することも成功のコツです。
まとめ
社会起業家は、社会をより良くするための問題を解決するために様々な課題に取り組む起業家です。
一般的な起業とは異なり、直接的に社会問題を解決することを目的とするため情熱や問題を発見する視点が必要となります。
認知度の低さや事業を成功させるハードルが高いことからまだまだ人口が少ない分野ではありますが、よりよい社会を作るために社会起業家というビジネスを考えてみてはいかがでしょうか。

