起業を考えるとき、悩みの種の一つが事業資金の調達です。家族に援助してもらったり金融機関などで借り入れをしたりと方法はさまざまですが、返済が不要な補助金や助成金を活用するのも一つの手です。
今回は、創業時にもらっておきたい補助金と助成金について詳しく解説いたします。
補助金・助成金とは?
補助金・助成金は、主に国や自治体が主体となって募集しているもので、返済の必要がない給付型の金銭のことです。
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
補助金とは
補助金は、国や自治体が出している政策の目標に合わせて、起業家をサポートする目的で給付されるお金です。
主な管轄は経済産業省や地方自治体で、さまざまな分野で募集されており補助金によって目的や対象が異なります。
予算が決まっており受付可能な件数に限りがあります。早めの申し込みを心がけましょう。
人気の補助金は、受付開始から役所や商工会議所に列ができたり、オンライン申請の場合はサーバーになかなかつながらない、なんてこともあったりします。
また、申し込んだからと言って必ず給付されるわけではありません。
補助金は、審査によって採択の有無や金額が決まります。
まず採択されるかどうか、つまり補助金を受けられるか受けられないかの審査が事前にあり、実際に使ったお金を清算し事後検査を受けて、初めて給付を受けることができるのです。
出典:経済産業省
助成金とは
助成金は、主に雇用や雇用の維持、労働環境を整備することを目的としています。
従業員を雇用する場合には、毎月のお給料だけでなく人材育成のためのお金が何かとかかりますよね。
ほどんどの助成金は厚生労働省の管轄であり、特に創業時は雇い入れ時の支援がメインとなるでしょう。
補助金とは異なり、基本的には要件を満たしており申請に不備が無ければ給付されます。
種類も多いので年間を通して複数の支援を受けることも可能です。
創業時に補助金・助成金をもらうメリット

創業時に補助金や助成金を受ける一番のメリットは、返済の必要がないお金だということ。
創業時は信用もなく、金融機関から融資を受けることがなかなか難しい現状もあります。
もし融資が下りたとしても、仕事を始めたばかりで借金を抱えてしまうと返済が不安ですよね。
起業を決めたらまずは自分の目的ややりたい分野から補助金や助成金を探してみましょう。
2つ目のメリットは、書類を作成することにより事業の計画を固めることができる点です。
補助金や助成金を申請する際に提出することが多い書類が「事業計画書」。
この書類にはなぜこの事業を始めたか、どんな商品やサービスがあるのか、顧客層や今後どのような展開を考えているかなど、事業について深く向き合う内容を記載する必要があります。
「なんとなくこんな感じ」というふんわりとしたイメージを固める必要があるので、自分が始めようとしている事業の強みや課題がよりはっきりとするでしょう。
また、商工会議所やコンサルティング会社と相談をしながら作成することも多く、自分では気づけない魅力や問題点がみつかることも。
どちらも経営には欠かせない要素となりますので積極的に周りを巻き込みましょう。
創業時に補助金・助成金をもらうデメリット

いいことずくめと思われる補助金や助成金ですが、もちろんデメリットもあります。
一つ目は、なんといっても支給されるまでに時間がかかることです。
補助金や助成金は、申請をして採択されたらすぐにお金がもらえるわけではありません。
実際に支払いなどをした後、領収書などを添付してもう一度審査してもらい、問題が無ければ支給されるという仕組みなのです。
補助金や助成金の種類にもよりますが、支給まで半年ほどかかる場合も。
支払いが自己資金で行えなければ、結局融資の申請が必要になるなんてこともありえます。
また、お金が支給されるまでの間、事業のPDCAができないことはかなりデメリットです。
事業が完了してから気づいた「どう考えても修正した方が良い部分」が見つかったとしても、お金が支給されるまでは何も修正・変更ができません。ご注意ください。
二つ目は、書類作成に手間と時間がかかることです。
メリットにも挙げた「事業計画書」の作成など、起業には大切なことですが手間と時間がかかってしまいます。自分用にまとめるのとは違い、申請用紙に合わせたフォーマットで書かなければなりませんし、採択されるような文章を考えなくてはなりません。
悩みに悩んで、時間をかけたのに不採択になってしまったら悲しいですよね。
専門家に頼むという手もありますが、手間と時間の代わりにお金がかかってしまいます。
もし依頼する場合は、採択された際に受けられる金額と専門家に支払う金額とのバランスを考えて、信頼できる人や中小企業診断士や商工会議所にお願いしましょう。
創業時にもらっておきたい補助金
小規模事業者持続化補助金(一般型)
小規模事業者持続化補助金は創業時に人気の補助金で、2022年現在、毎年継続して募集を行っています。
この補助金の目的は、小規模事業者が持続的に事業を発展させていくために経営計画を作成し、販路拡大や生産性の向上に対する取り組みを支援すること。キャンペーンのチラシの作成やそれに付随して作成するホームページ、店舗の改装、機械設備の導入など、創業時の様々な取り組みが対象となります。
商工会議所か商工会の支援を受けることが前提条件となっているので、小規模事業者持続化補助金を受けたい場合は、まず地元の商工会議所か商工会に足を運んでみましょう。
気を付けたいのは、応募の締め切り。
申請書類を提出する際に、商工会議所等から交付してもらう「事業支援計画書」という書類があります。この書類の交付受付の締め切りが、原則として提出の締め切りの1週間前なので、余裕をもったスケジュールで臨みましょう。
【申請の流れ】
- 商工会議所等に相談、申請に必要な経営計画書などを作成(事業者が支援を受けながら実施)
- 商工会議所等にいったん提出し、「事業支援計画書」を交付してもらう(事業者が実施)
- 電子申請か郵送で提出(事業者が実施)
- 申請内容の審査、採択・交付の決定
- 補助事業の実施(事業者が実施)
- 実績報告書の提出(事業者が実施)
- 確定検査・補助金額の確定
- 補助金の請求(事業者が実施)
- 補助金の入金
- 補助事業効果の報告(事業者が実施)
【対象者】
常時使用する従業員が20人以下の法人や個人事業主(宿泊業や娯楽業を除いた商業・サービス業の場合は5人以下)
【補助率】
原則、対象経費の2/3以内
【補助上限額】
- 50万円(通常枠)
- 100万円(インボイス枠)
- 200万円(賃金引上げ、卒業、後継者支援、創業支援枠)
出典:経済産業省
地域・企業共生型ビジネス導入・創業促進事業補助金
地域に根差したビジネスを始めるのであれば、「地域・企業共生型ビジネス導入・創業促進事業補助金」が利用できる可能性があります。
こちらの補助金の目的は、中小企業等が地域内外の関係主体と連携して、その地域の社会問題を技術やビジネスで解決していこうというもの。
申請は単独でもできますし、他の事業者と協力して複数申請することもできます。地域経済の活性化と企業の収益性を両立できるので、社会貢献にもつながる取り組みです。補助金の種類は主に3種類あり、関連する地域(実証地域という)の数によって決まります。
5市町村以上の「通常型」、10市町村以上の「広域型」、15地域以上の「さらなる広域型」とあり、対象の経費は人件費や事業に関わる旅費、リース代、機械装置費、システム開発費、専門家へ支払う経費など、スタートアップに必要な経費が幅広く認められます。
創業時にはありがたい補助金でしょう。
注意点としては、対象者が「法人」であること。
個人事業主は対象とならないので、補助金の目的に合うような仕事を考えているのであれば法人として起業することを検討してもよいかもしれませんね。
さらに補助金額が大きい反面、審査基準が厳しかったり書類の作成に手間取ったりすることも考えられます。
対象経費には「専門家への支払い」も含まれていますので、必要があれば補助金に精通した専門家に相談・依頼するのも一つの手です。
【申請の流れ】
- 補助金の募集要項や対象を確認する(事業者が実施)
- 公募申請書、事業計画書の作成等を作成し申請する(事業者が実施)
- 申請内容の審査、採択・交付の決定
- 補助事業の実施(事業者が実施)
- 補助事業の実施中、定期的な状況報告と資料等の提出(事業者が実施)
- 事業終了後、確定検査のための書類準備(事業者が実施)
- 補助金額の決定・交付
【対象者】
日本国内の登記された法人(中小企業等や地域未来牽引企業)であり、この事業を遂行できる組織と人員を有していること
【補助率】
原則、対象経費の2/3以内
(広域型かつ地域未来牽引企業等の場合は1/2以内)
【補助上限額】
- 100万円~3,000万円以下(通常型)
- 100万円~4,000万円以下(広域型、さらなる広域型)
出典:経済産業省
出典:令和4年度 地域・企業共生型ビジネス導入・創業促進事業補助金
IT導入補助金
IT導入補助金は、サービス業を中心とした中小企業や小規模事業者が対象の補助金です。
生産性の向上に貢献するソフトウェアなどのITツールを導入するための支援であり、「IT導入支援事業者」という、指定された業者が提供しているツールが補助の対象となります。
この「IT導入支援事業者」のサポートのもと導入するという、ということが趣旨の補助金なので、業者選びも重要です。
なじみのお店や業者が、必ずしも支援業者とは限りません。
購入の相談の際には、IT導入補助金を使いたい旨を伝え、支援事業者であるか、支援事業者に登録する予定はあるかを確認しましょう。
補助金の種類は主に2種類あり、「通常枠」と「デジタル化基盤導入枠」に分かれています。
特にデジタル化基盤導入枠は対象となる経費の幅が広く補助率も良いので、対象となりそうであればこちらの枠を利用することを検討してみましょう。
【申請の流れ】
- 補助金の募集要項や対象を確認する(事業者が実施)
- ITツールの選択など、事前準備をする(事業者が実施)
- 交付申請(事業者が実施)
- 申請内容の審査、採択・交付の決定
- ITツールの契約・導入など、補助事業の実施(事業者が実施)
- 事業実施報告(事業者が実施)
- 補助金額の確定
- 補助金交付手続き(事業者が実施)
- 事業実施効果の報告
【対象者】
中小企業、小規模事業者等であること(業種によって従業員数や資本金の規定有り、個人事業主を含む)
【補助率】
- 対象経費の1/2以内(通常枠)
- 対象経費の3/4または2/3以内(デジタル化基盤導入枠)
【補助上限額】
- 30万円~1450万円以下(通常枠)
- 5万円~350万円以下(デジタル化基盤導入枠)
出典:経済産業省
創業時にもらっておきたい助成金
地域雇用開発助成金(地域雇用開発コース)
地域雇用開発助成金は、雇用の機会が特に不足している地域等の事業主が事務所を設置して整備を行い、その地域に住んでいる求職者を雇い入れる場合に助成されるものです。
1年ごとに最大3回支給を受けることができ、事務所の設置や整備費用と雇用している労働者の増加数に応じて助成金額は変わります。
あくまでこの助成金の目的は、「地域における求職者の雇用環境の改善」ですので、地域貢献になるついでに創業時の手助けにもなる、というイメージで利用するとよいでしょう。
【申請の流れ】
- 計画書と、創業の場合は事業主の履歴書を併せて労働局長に提出
- 1回目の計画を実行する(18カ月以内に行う)
- 1回目の完了届を労働局長に提出
- 引き続き雇用の維持、被保険者数の維持などに努める(1年間)
- 2回目の支給申請書を労働局長に提出
- 引き続き雇用の維持、被保険者数の維持などに努める(1年間)
- 3回目の支給申請書を労働局長に提出
【対象者】
- 雇用保険適用事業主(新たに事業を始める法人・個人事業主等も含む)
※労働関係の法令違反がないかどうか、など細かな要件有り
【主な受給要件】
<1回目の支給>
- 対象となる地域への事務所設置・整備、地元の求職者の雇い入れに関する計画書の提出
- 計画を実行するにあたり、計画日から18か月以内に完了させること
- 設置・整備費用は1点あたり20万円以上で、合計額が300万円以上の場合のみ助成対象となる
- 地域に居住する求職者を被保険者としてハローワーク等の紹介で3人※(創業の場合は2人)雇用すること
<2、3回目の支給>
- 被保険者数の維持※(支給基準日における数が、完了日における数を下回らないこと)
- 対象労働者数の維持※((支給基準日における数が、完了日における数を下回らないこと)
- 対象労働者の職場定着※(支給基準日における離職者数が、完了日における数の1/2以下、または3人以下であること)
【支給額】
- 事務所設置・整備費用:300万円以上1,000万円未満
- 労働者の増加人数:3※(2)~4人
上記の場合、支給額は基本48万円※(100万円)
出典:厚生労働省
※(カッコ内は創業の場合)
中途採用等支援助成金(UIJターンコース))
中途採用等支援助成金は、東京圏から地方への移住者を採用するための経費の一部を助成してくれるものです。
地方から都市部へ移住した人が再び生まれ故郷の地方に帰ってくることを「Uターン」、出身地とは別の地方に移住することを「Iターン」、地方から都市部へ移住して就職した後、故郷のほど近いところに戻ることを「Jターン」といいます。
地方公共団体が運営するUIJターン専用のマッチングサイトがあり、そこを経由して雇い入れしていることが条件の一つになります。
知り合いの息子が大学から帰郷するから直接連絡を取って雇用した…というのは助成金の対象になりませんので注意しましょう。
【申請の流れ】
- 採用計画書の提出
- 提出日の翌日から3か月以内に計画の開始日を決める
- 採用活動や雇い入れを行う(6か月以上12か月以内)
- 雇い入れから6か月経過する日の翌日から2か月以内or計画期間の終わりから2か月以内に支給申請書の提出
- 助成金の支給
【対象者】
<事業主>
採用計画期間内に、対象労働者を1人以上雇い入れた事業主
<労働者>
- 東京圏からの移住者
- 地方公共団体が開設・運営するマッチングサイトに掲載された事業主の求人に応募していること
- 雇用保険の被保険者として雇い入れられること
- 継続して雇用する労働者として雇い入れられること
【主な受給要件】
- 採用活動に係る計画書を管轄の労働局長に提出し、認定をうけていること
- 計画書に定めた期間内に採用活動を行っていること
<対象経費となる採用活動の内容>
- 募集・採用パンフレットなどの作成
- 自社HP、PR動画の作成
- 就職説明会や面接会(オンライン含む)
- 社会保険労務士などの専門家によるコンサルティング
【助成率と支給額】
- 中小企業:対象経費の1/2(支給額上限:100万円)
- 中小企業以外:対象経費の1/3(支給額上限:100万円)
出典:厚生労働省
補助金・助成金の申請時は「事業計画書」が必要

補助金や助成金の申請をするとき、添付資料の一つに「事業計画書」を求められることがあります。
事業計画書とは、これからどのような事業を行いどのように収益を上げるのか、その戦略などを記載した書類です。
収益や戦略というと何だか難しそう…と思われるかもしれませんが、起業を考えているのであれば、「こんな仕事をして、これだけ稼ぎたいな」というビジョンはぼんやりとでも持っているのではないでしょうか。
そのビジョンを明確にする作業が、事業計画書の作成です。
いきなり申請書類の項目を埋めていくよりも、まずは箇条書きでもよいので計画を書き出してみましょう。
【事業計画書のためのチェックポイント】
- 自分や一緒に起業する仲間の経歴
- どのような目的で起業しようと思ったのか
- 事業内容は何か
- 自分のサービスや商品の強みは何か
- どんな人に売りたいか
- どんな方法で売るか
- 仕入れ先はどこか
- どうやって生産するのか
- いくらで売って、いくら儲けられるか
- 資金はどうやって調達するか
補助金・助成金の相談はどこにすればよいか

補助金・助成金の申請は一人でもできますが、専門的な書類もありすべてを一人で進めるのは労力がとてもかかります。
まずは、地元の商工会議所や近所の税理士に相談してみましょう。
「起業を考えていて、このような補助金・助成金を利用したいのですが…」と相談すれば、親身になってくれるはずです。
小規模事業者持続化補助金など、商工会議所の支援を受けることが前提の補助金もあります。書類の書き方を教えてくれたり、過去に採択された書類の参考例をもとに添削してくれたりと、無料で手厚いサポートを受けられますよ。
この時、商工会議所への入会を勧められることがありますが、採択に影響はありませんので無理に入会する必要はありません。税理士ならスポット案件として受け入れてくれるでしょう。
次に、中小企業診断士や行政書士、社会保険労務士などの専門家への相談です。
中小企業診断士は、その名の通り中小企業の経営に精通している専門家。
財務分析や市場調査などに精通しているので幅広くサポートしてくれます。特に事業計画書を作成する際のコンサルティングに強みがあるでしょう。
行政書士は、官公庁に提出する書類作成の専門家です。
幅広い業務を請け負うことができ、弁護士に依頼するほどでもないちょっとした法律の相談なども受けてられることから「街の法律家」といわれています。
コンサルティングだけで終わってしまう専門家もいますが、行政書士は書類作成のプロなので代筆まで受けてくれることが多いでしょう。
社会保険労務士は、厚生労働省管轄の助成金の申請業務について独占的に業務を行っています。これは社会保険労務士法第二条で業務が規定されており、第二十七条でこれを社会保険労務士以外が行ってはいけないと規定されているためです。
うっかり行政書士などに頼んでしまわないよう、注意しましょう。
出典:e-Govポータル
そして専門家に頼む場合は依頼費用がかかることを忘れてはいけません。
一般的には着手金として5~20万円ほど前払いをし、その後採択されたら成功報酬として10~20%ほど支払いが発生します。
中には高い報酬を請求してくる業者や明細が不明瞭で後から金額を釣り上げてくるような悪質な業者もいますので見極めが大切です。
まとめ
信用が少ない創業時には、返済の必要が無い補助金や助成金は、非常にありがたい存在です。
分野によってさまざまな補助金や助成金が用意されていますので、自分の事業が当てはまるかどうかチェックしてみましょう。
どちらも申請の際には「事業計画書」が必要なことが多いのでしっかりと自己分析をして臨むことが大切です。必要があれば専門家に依頼するのも一つの手ですよ。
補助金も助成金も支給までに半年以上かかることもありますので、起業したいと思ったらすぐに調べ始めるとスムーズ。
この記事を参考にして、自分に合った補助金・助成金選びをしましょう。
